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まあ当然のことながら、蜂谷さんは私の存在を知らないわけで。同学年なのにこうして敬語を使われ、同じ大学にも関わらず、一緒に来て欲しいと言われる。
……本当は言うつもりなかったけど、確かに事情が事情だから、これはちょっと言ったほうがいいか。
「……蜂谷、さんですよね」
「え、なんで名前……」
「あ、えっと……同じ大学、なんです、実は……」
「!? そうなんだ、それで……でも、学科違いますよね?」
「すみません、実は、同学年なんですよ、私たち。蜂谷さん、結構人気だから知ってて……」
そこで蜂谷さんの表情が曇る。
え、なんで?
「…人気?」
「…あの、蜂谷さん、結構同学年の女子の間でかっこいい、って騒がれているんですけど…」
と遠慮がちに付け足せば、彼はまたぽかんとした表情をする。
まさかの無自覚だったらしい、彼に自分がどれほど女子から人気なのかを何故か私が述べると、彼はもういいです、と耳まで真っ赤に染め上げ、私が次の言葉を紡ぐ前に、やんわりと手で制した。
「そういえば、名前きいてないんだけど……」
「あっ、ごめん。えっと、折原和葉、といいます」
今の今まで名乗るのを忘れていた、と自分で恥じる。
人の名前を言っておきながら、自分の名前を言わないとは……気を付けよう。
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