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どっぷりと夜が更け、蛍光灯だけでは
心無しか薄暗く感じた。
夜は淋しくなるだろうと考えていたのだが
案外と虫や蛙の鳴き声で逆にやかましい
位だ。
外に出て星空を観ようと思っていたのだが
旅の疲れかぐっすりと眠ってしまった。
「ありがとう、お婆ちゃん。
ありがとう、故郷・・・」
「キャー!!」
突然の有香の悲鳴に飛び起きた直也。
携帯を見てみると、朝の9時だ。
「もう、こんな時間」
まだ、寝惚けている直也。
「直也、観て!」
有香の言葉に、目を擦りながら。
「なんだって!?」
直也が良く見てみると、家の中が
廃墟になっているではないか。
「お婆ちゃんは?」
2人は必死に周囲を見渡したが、
何処にもいない。
「一体、これはどういう事なんだ」
天井に穴が開き、壁は所々崩れて
穴が開いている。
床も汚れていて、虫が這っている。
慌てて2人が外に出て、家を見てみる。
昨日とはうって変わって、周りは
雑草だらけ、中には空き缶やゴミが
散乱している。
「私達はこんな所に・・・」
有香が、右手で口を押さえながら、
絶句している。
「ゴメン、こんな所に連れて来ちゃって。
とにかく帰ろう」
「お婆さんは、何処に行ったのかしら」
2人が周囲を見渡すが、何処にもいない。
すると、有香が片手に何かを持っている。
それは、かなり古いロイド眼鏡だ。
それを見た直也が、ハッとする。
「それお婆ちゃんのだ!
何故、こんな所に・・・」
その時、一陣の風が吹いた。
「お婆ちゃんの匂いがする、
この村には昔から神隠し伝説があるんだ。
隣りの家族やお爺ちゃんも、
突然失踪しちゃったんだ」
「じゃ、お婆さんも?」
沈黙を保ったまま、頷く直也。
「でも来て良かったわ、なんだか
肩が軽くなった感じ」
何度も、肩を触る有香。
何度も、右手に持ったロイド眼鏡を
観る直也。
「この眼鏡・・・お婆ちゃんが助けて
くれたんだ」
廃墟の周りには、生暖かい風が過る。
2人はいつまでも、タクシーを待っていた。
(終)
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