第1章 一泊二日

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直也と有香が玄関前に立つと、 祖母が暖かく迎えてくれた。 「おばあちゃん、帰って来たよ!」 「よー来たね、上がりんしゃい」 祖母が台所に行き、長年使い慣れた鉄瓶で お湯を沸かしている。 2人が座敷に上がると、居間の真ん中に 囲炉裏があり、炭が黒く焦げている。 既に、柱や壁は炭で真っ黒に黒光り していた。 家には部屋がふたつあり、それぞれ 10畳程の広さがある。 目につくのは奥にある大きな仏壇、 お爺ちゃんの位牌がちょこんと 置かれてある。 祖母がお盆に湯呑みじゃわんを二つ 載せて、直也の前に現れた。 「こげな遠い所、よういらっしゃった」 2人の前に、湯呑みじゃわんを置く。 直也がよく見ると、前よりも 身体がひとまわり小さくなった感じだ。 「おばあちゃん、幾つになった?」 「90になるけ、そろそろお爺さんの所へ 行く準備をしとるとよ」 何の躊躇いも無く、屈託なく答える祖母。 いく本もの深い皺が、厳しい自然の 中で生きて来た証しなのだが、 にこやかな笑顔がそれを微塵も 感じさせない。 祖母の1日の日課は、家の掃除と 仏壇の前でのお経を唱える事だ。 部屋の中には、古い箪笥がひとつだけ、 テレビもラジオも無い。 「こちらは?」 祖母が、彼女に指を差す。 「学校のクラスメイトで、有香さんです」 「可愛いいオナゴじゃ」 孫でも見る様に、ニッコリ微笑む祖母。
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