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ふと渡瀬を見ると、彼が封筒から取り出したのはメガネだった。あの、少し曲がった矢島の赤いメガネ。
「今さら返されても困る?」
いたずらがバレた子供みたいな渡瀬に、矢島は泣き出しそうな顔で首を振った。
「渡瀬に持ってて欲しい」
「じゃあ、もらっておく。これは俺のお守りにするよ。どんなに絶望的な状況に思えても、その気になれば変えられるんだっていう証だ」
「救ってくれたね、あの時。……ありがとう」
照れたようにメガネを鼻の上に乗せた渡瀬には、あの頃とは世界が変わって見えているに違いない。
初めて見た渡瀬の笑顔は、一月の柔らかい日差しの中で輝いていた。
END
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