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あれはゲームだった。少なくとも渡瀬にとっては。
あの日の朝も渡瀬は机の上に黒いランドセルを置いて言ったんだ。
「みんなでゲームをしようぜ。面白いことを思いついたんだ」
渡瀬が何を思いついたのか。教室の中に異様な緊張が走った。
「へえ? どんなこと?」
渡瀬の腰巾着みたいな猪俣の声にも、ほんの少しの恐怖が感じられた。
――渡瀬はこの四年四組を支配している。危うい狂気をちらつかせて。
「メガネ狩り」
渡瀬の楽しそうな声に思わず目をギュッと瞑った。……そんな……嘘だろ?
真っ先にターゲットになったのは小池だった。小池の黒縁メガネはあっという間に渡瀬の手によって外されて、床で踏みつけられた。
「メガネがいくらするか知ってるのか? 高いんだぞ! 弁償しろよ!」
小池が半ベソをかきながらも、渡瀬に食ってかかった。でも、その勢いも渡瀬にギロッと睨まれるまでだった。
「酷いな。自分で落として踏んづけたくせに、俺のせいにしようって言うのか?」
渡瀬にせせら笑われたら、小池はもう何も言えなくなってしまった。
この時、教室にいたのはクラスメイトの三分の一ほど。その中にメガネをかけている者は他にいなかった。みんなの顔には自分が今日一日難を逃れたという安堵の表情が浮かんでいる。誰一人として小池に味方しようとする者などいなかった。
それは僕も同じだった。
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