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玄関の扉を開けると、中からはテレビの音が漏れていた。 「あんまり綺麗じゃないけど、どうぞ」 人を家に招いたのは学生時代以来かもしれないと思うと、いかに自分が人と関わらなくなっていたのかを思い知る。 高校まではもっと、人と人との間にある距離みたいなものは近かった気がする。大学でそれが少し広がって、社会に出たらもう、周りのすべての人間が赤の他人であるのだと思わざるを得なくなった。 彼女は少し緊張しているのか、ほとんど声を発しない。どうしたものかと思いながら、部屋へ案内する前に両親のいる居間に顔を出した。 「あら、弘幸(ひろゆき)、おかえり」 「ただいま。あのさ、ちょっと友達が終電逃して困ってたから部屋を貸したいんだけど、妹の部屋入れていい?」 妹は大学進学とともに家を出てからそっちで就職も決めて、部屋はほとんど手付かずになっているはずだ。 「お前の部屋を使えばいいだろう」 父が不思議そうにそう漏らした。 すると、彼女が気を遣ったのか後ろから顔を出した。 「あの、すいません。初めまして」 気まずそうに、けれど、丁寧に頭を下げている。 「あ、こりゃすまん。女の子なら、そりゃそうだな。どうも、弘幸の父です」 「沢渡杏子(さわたり きょうこ)と申します」 「えっと、杏子ちゃんね。優ちゃんの部屋、綺麗になってたかしら」 まさか俺が女を連れてくるなんて思いもしなかったようで、二人とも平静を装っているのが見て取れた。まぁ、連れてきた本人が一番この状況に戸惑っているのだから無理もない。 「あぁ、テキトーにやっとくから、母さんたちは気にしないで」 それだけ言って二人に背を向ける。しかし、思い立って足を止めた。 「あ、彼女とかじゃないから、変な気は回さないで」 両親共どこかにやついてこちらを見ていたが、つまらないと言いたげな顔に変わった。本当に、失礼な親だ。 もう言うこともなく、リビングを後にした。
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