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◆ ◆ ◆
クリスマスイブのその日。
午後から静かに雪が舞い始めて、夜にはしんしんと降り積もる雪に足が埋まると、つま先からその温度を奪っていく。
辺り一面を覆う温度のない色合いは、まるで音までも吸い込んでいるようだった。
世界は、人々すべてを切り離す。そんな感覚があった。
通勤の電車は帰宅ラッシュでいつもいっぱいで、冬の外気を吸い込んだコートが人の出入りの度に少しだけちがう空気を車内に運んでくる。
人込みにも吊り革にもたれるのにももう慣れたけれど、未だに誰とも繋がっていないようなこの世界の希望だけは見えない気がしていた。
「次はー、――。お出口、右側です」
車内アナウンスで、一気に現実に引き戻される。
俺の降りる駅は、乗客もかなり減った先だ。改札を抜けて、そこから15分くらいは歩かないといけない。けれど、道行く車も人もまばらのその道を歩くのは好きだった。
丁度、駅と家の中間にある公園は見事な白銀の世界が広がっていた。
「それもそうか」
あまりの静けさに一瞬息を飲んでから、そう漏らした。
こんな雪の夜に、公園に出てこようなんて物好きがいるわけもない。足跡一つない景色が、必然のことであると気付いたときだった。
「ん?」
よく見ると、細雪が降るその先のブランコに、人影らしきものが映った。
どれほどの時間、その場所にいたのだろうか。
ベージュのダッフルコートには景色に溶け込むほどの雪が降り積もり、ニット帽は元が白いのか雪のせいなのか分からなくなっていた。
彼女の姿を眺めながら逡巡する。
人通りの少ない路地、足跡のない公園にいる彼女。
確実に人と人が断絶されたこの街の中で俺は茫然と立ち尽くしていたが、思いを振り払うと、公園の前の道を横切るように歩き出した。
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