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そんな事を思いながら隣に並ぶ彼の横顔を見ると
「何?」
私の視線に気づいた彼が立ち止まり私の方を見る。
これまで彼への思いを抑えていた反動なのか気持ちが溢れそうになる。何でもない時にですら。
落ち着け私。漸く心を通わせることが出来て浮かれているのは否定しないけど…
「ううん、なんでもない。雨、止んだわね。」
敢えて、どうでもいい会話をしてみる。
「ああ、そうだね。」
また歩き出す私達。
だけど、一度溢れ出したこの思いはやはり止められない。ずっと、ずっと押さえ込んでいたんだから。
「…やっぱり、」
立ち止まり彼の方を見る。
「ん?」
同じ様に立ち止まり私の方をじっと見る彼。
「えっと…だから、」
「だから?」
「やっぱり…好きって言いたくて。」
雨上がりの赤い月が私の心を素直にしてくれる。
彼は少し目を見開いたかと思うとその切れ長の瞳は直ぐに弧を描いた。
そしてーーー
「知ってる。俺も好きだよ。だけど、」
そこまで言うと私の耳元に顔を寄せ
ーーーーそんな可愛い事言って、知らないよ。この後、覚悟してよ。先生?
「…っ。もぉ!自分だって先生の癖に。それに私はもう先生じゃないしっ。」
必死に抗議するも
「はい、はい。先生じゃなくて今は主任だっけ?」
余裕な笑顔を浮かべてそんな事を言う彼に私は叶わない。
それにこんな風にふざけ合うやり取りが心地よく思えるのも漸く私達があの頃より前に進めた証なのかもしれない。
ふざけあいながらもしっかり手を取り合い夜の街を歩く私達を手を伸ばせば届きそうな月が見守っていた。
雨は止んだばかり。
これからもきっと何度も何度も雨に降られる事もあるだろう。
その度に私たちは立ち止まるかもしれない。
だけど、きっと大丈夫。
二人ならきっと大丈夫。
二度とこの手を離さないように。
どうか、この恋がずっと続きますように。
雨上がりの夜空にそっと願った。
終
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