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「あっ…」
「なに?」
お互いのドア前まで来た時、家の鍵を入れたポーチを学校の机の中に置いてきた事を思い出した。
今朝、抜き打ちで行われた持ち検の時、化粧ポーチをそっとスクバから取り出し、机の奥に押し込んだのだ。
普段、化粧なんてすること無いけど、部活がない時くらいマスカラくらいは付けたくて…
日頃、お化粧とは無縁の体育会女子の儚い夢なのだ。
「学校に鍵、忘れちゃった。取りに帰るわ。じゃね。」
「えっ、この雨の中?お前、それはないって。既に体の半分濡れてんじゃん。」
「って、それはあんたがムリヤリ傘に入ってくるからでしょうが。二人ともそこそこ体も大きいんだし。」
サッカー部のケンイチは身長180近くあり肩幅もガッチリしている。
そして170ちょい超えの私はバレー部としては普通だけどやはり平均身長の女の子達よりずっと大きい。
そんな私達がちっさな傘に入って帰ってきた結果、そりゃ濡れるわ。
「うち、来いよ。」
「えっ?」
「その内、おばさん、帰ってくるだろ?鍵は明日でもいいんじゃね?テスト週間に風邪引いて熱でも出したらお前んちの親はーーー」
「ーーーーお世話になります。」
「素直で宜しい。ほれ、」
とドアを開けてくれるケンイチ。
部屋に上がるとケンイチがタオルを持ってきてくれた。
「ありがと。」
「うっす。じゃ、俺、着替えてくるからお前ここで待ってろ。覗いちゃダメよぉ?」
相変わらずの小学生的な発言に苦笑いを浮かべながらもリビングのソファに座る。
ケンイチの家なんて毎日でも来ているのに、未だ胸のドキドキが収まらないのは狭い傘の中でケンイチの腕に自分の腕がずっと触れていたせいだろうか?
6月に入り夏の制服に変わった私達は二人とも半袖で…
ここに着くまでずっと腕が直に触れていた。
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