53人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほんと、ごめんね。就職祝いどころかゆっくり話す間もなくて。でも本当に助かったわ。」
漸く最後の客も帰り千晶さんがホッとした表情で言う。
「気にしないでください。久しぶりでちょっと緊張したけど、なんとかなるもんですね。」
「うん、全然、腕落ちてないね。シェイカー振る姿相変わらず様になってたよ。」
「そうですか?久しぶりの事で張り切りすぎたかも。明日腕が痛くてチョーク持つ手が震えたりして?」
と、わざと手を震えさせながら戯けて言ってみる。今の職場である学校じゃこんな姿誰も知らない。ここへ来るとやはりあの頃の自分にスッと戻れる気がした。
「じゃあ、失業した時はいつでも来てよ。なんてね。可愛い生徒達が待ってるんでしょ?さてと、今日はもう看板も下げよう。全然話せなかったし少し飲んでく?」
千晶さんの心遣いが有り難い。
けれどもう遅いし、明日もある。それに思わぬ忙しさに千晶さんの顔にも若干の疲れが…
「お気遣いなく。今日は帰ります。その代わり今度、ゆっくり来ていいですか。」
「そうね。明日もあるもんね、先生?」
「俺、看板下げてきます。」
戯けてみせる千晶さんに苦笑いを返す。
結局、来なかったな。
俺の待ち人。
まぁ、来る保証もないしね。
看板を下げる為にカウンターから出ようとしたその時、ドアが遠慮がちに開いた。
「すいません。今日、もう終わりーーー」
嘘だろ?
待ち人来たる。
最初のコメントを投稿しよう!