霖雨(りんう)

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「ほんと、ごめんね。就職祝いどころかゆっくり話す間もなくて。でも本当に助かったわ。」 漸く最後の客も帰り千晶さんがホッとした表情で言う。 「気にしないでください。久しぶりでちょっと緊張したけど、なんとかなるもんですね。」 「うん、全然、腕落ちてないね。シェイカー振る姿相変わらず様になってたよ。」 「そうですか?久しぶりの事で張り切りすぎたかも。明日腕が痛くてチョーク持つ手が震えたりして?」 と、わざと手を震えさせながら戯けて言ってみる。今の職場である学校じゃこんな姿誰も知らない。ここへ来るとやはりあの頃の自分にスッと戻れる気がした。 「じゃあ、失業した時はいつでも来てよ。なんてね。可愛い生徒達が待ってるんでしょ?さてと、今日はもう看板も下げよう。全然話せなかったし少し飲んでく?」 千晶さんの心遣いが有り難い。 けれどもう遅いし、明日もある。それに思わぬ忙しさに千晶さんの顔にも若干の疲れが… 「お気遣いなく。今日は帰ります。その代わり今度、ゆっくり来ていいですか。」 「そうね。明日もあるもんね、先生?」 「俺、看板下げてきます。」 戯けてみせる千晶さんに苦笑いを返す。 結局、来なかったな。 俺の待ち人。 まぁ、来る保証もないしね。 看板を下げる為にカウンターから出ようとしたその時、ドアが遠慮がちに開いた。 「すいません。今日、もう終わりーーー」 嘘だろ? 待ち人来たる。
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