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静かなBARの店内に何度めかの沈黙が走る。
その沈黙を破ったのは彼だ。
「そういうのも全部見せてよ。」
「あの頃の俺と今の俺は違う。」
「今なら全部、あんたの事、受け止める事が出来る。」
「それともあんたにとって俺はまだガキ?」
彼の言葉が私の心を迷わせる。
こんな私でもいいのだろうか。
見せかけの強がりで固めた私なんかでーーー
「私なんかよりもーーー」
ずるい大人の常套句だ。
否定を望む卑怯な言葉。
そんな事、ないよって相手に求めてる。
そんな自分にまた嫌気が差す。
「いいよ。」
「えっ…」
「私なんかって言う、それも含めて俺はあんたがいいんだ。あんたじゃなきゃダメなんだ。」
目の前の彼がスッと手を伸ばしてくる。
「強がってるあんたも弱気なあんたも、全部、受け止めたい。だから、俺の心の中に降る雨を止ませてよ。」
カウンターを挟みながらも彼との距離がゆっくり縮まってくる。
未だ迷いを見せる私の頬に手を添え彼は更に続ける。
「確かに、あの頃の俺はあんたにどこか遠慮してた。自分にも自信がなかったし。ただのガキでしかなかった。だけど、離れてみて分かった事がある。もう、俺にとってあんたは歳上でもなんでもない。ただ、俺が惚れた女ってだけだよ。それだけなんだよーーー」
彼の唇が私の唇に重なった。
彼が好きと言ってくれている。
もういいじゃない。
あの頃の私が囁く。
嫉妬する醜い姿も年下に溺れる姿も全部、見せてしまえばいいのよと。
素直になろう。
今がその時なのかもしれない。
ゆっくりと私は瞳を閉じた。
一筋の涙がすっと頬を伝った。
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