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2、3度吸うとアッシュトレイにそれを押し付ける。
ーーー次はもう少し、派手なネイルにしよう。
随分と地味な色目の指先を見つめそんな事を思う。
前に一度、彼が褒めたから。
シンプルな色使いが素敵だって。
私の手に唇を押し当てて、そう言ったのをこの手の指先が覚えている。
目線をアッシュトレイから上げると漸く彼と目があった。
黒くて少し長めの彼の髪は見た目とは違って触れるとふわふわとしている。
彼に抱かれながらその後ろ髪に指を差し込むのが好きだった。
私だけのもの。
彼は私の恋人。
この瞬間までは。
スッと目線をまた外す。
彼の真っ直ぐな視線が怖い。
「じゃあ、そろそろ行くわね。まだ仕事残ってるのよ。」
無駄な動きを省き、スッと席から立つと伝票を手に持ちレジへと向かう。
もちろん、追いかけて来ない。
だから私も振り向かない。
決めたのだから。
もう終わりにするって。
もう苦しみたくないから。
私らしくある為にも私は解放するの。
私の心を、
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