ふたりの春

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「百瀬。今どこにいるの?」 「あ、中庭……分かる?」 「うん。待ってて。今行くから」  水樹はそう言うと携帯をぷつりと切った。  僕の前に姿を現した水樹は、ほんの数時間前の水樹とは確実に違っていた。水樹の目には、野望を秘めた強い煌めきがしっかりと見て取れる。その目の輝きを見て、僕は目の前の現実が夢ではないのかと疑いたくなった。もし、そうだったらどうしよう。そんな風に不安になってしまうくらい、僕は満たされた幸福に包まれていた。 「行くよ」  水樹はいきなりそう言うと、僕の手を取った。 「え? どこへ?」 「……おい、今日は何の日だっけ?」 「え? あ!」  僕は今日が自分の大学院の合格発表の日だということをすっかり忘れていた。水樹のコンテスト結果の方が気になってしまい、自分のことなどすっかり置き去りにしていたのだ。 「早く行こう。俺がお供するから」  水樹は急げよとばかりに、僕の手を更に強く引っ張った。 「俺はちゃんと忘れてなかったからね」  水樹は取ってつけたようにそう言った。 「ぷっ、本当に?」  僕は思わず吹き出した。 「本当だよ。当たり前じゃん」  水樹は偉そうに胸を張った。 「よし。手始めにまず、僕の方から夢への一歩を踏み出すよ!」  僕達は、しっかりと手を繋ぎ合うと、もうすぐ満開の桜が咲き乱れるはずの僕の大学へと、思い切り走り出した……。
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