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さん
そんな男がなぜ釣りに来たかというと、友人二人の間で釣りのブームがきていたからだ。友人たちの会話に入るということは一切しなかった。しかし、盗み聞きをしているとどうやら釣り事態がブームではなく、奇妙な魚がいるというのが本題にあるようだ。その魚は透き通るようなきれいな尾びれを揺らしながら優雅に泳ぐ赤い魚であるらしい。男は祭りの時の金魚を想像したのだが、
「お前の想像とは全く違うぞ」
と一喝されてしまった。気持ちが顔に出ていたのか。
その赤い魚は、本当に美しい魚だという。種類はわからない。友人のひとりが言った。
「あぁ、一度でいいからお目にかかりたいもんだ」
するともう一人も頷きながら
「うんうん。あんな女めったにみれたもんじゃない」と。
「いや、お前のところにはいい女がいるじゃないか」
首をふりながら
「彼女は慣れてしまった。おふくろが毎日エサをやってるよ。」
「あぁ、なんてもったいない」
と残念そうな顔をした。男は頭が混乱していた。いったいこやつら女か魚の話、するならどっちかにしたらどうなのかややこしい。しかも、どこかおかしいぞ、こやつらに親しげな女、その影すらないはずなのだが。そして、男はしばらく考え途中でこやつらを哀れな連中なんだと思い始めた。人肌を恋しくなるあまりついに鱗に手を出すほどになるとは…。こやつらにいい女が現れるとこを男は願った。じわっと落ちそうになった涙を顔をあげ、こらえた。そして自分の哀れさにも気づきこっそり涙を流し、
「けれども、鱗には手は出すまい。」と小さく呟いた。
「まぁ、お前には関係のない話か」とぽんと肩を叩かれた。
「そうだな。海が怖いんじゃ一生みれないだろうな。」
二人とも哀れな目で男をみた。この態度に男は俺だけを哀れな男にするんじゃない。鱗に魂を売ったやつらめ。男は心のなかで叫んだ。しかし、
「俺は海が怖いわけではない。一度溺れただけだ。海は男のロマンである。仕方がない近々君たちのいうその美しい赤い魚を目の前につきだしてやろう。」
今度は声に出し、そして勢いよく立ち上がり、友人をギラギラした目付きで交互にみた。敵意を現しているように。なぜなら言うまでもない男には自信があった。みなさんお気づきのとおり男の頭にはあの得意体質がギラギラと輝き出していた。鼻息を鳴らしたように。
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