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しゃんとした背中で出ていった佐藤を、お辞儀で見送った神崎に、若いバーテンダーが声をかける。
「カミさん、あんな感じで大丈夫なんですか? なんだか、結構めちゃくちゃ言って、納得して帰っちゃいましたけど」
「ええ」と神崎は、若いバーテンダーに向き直って笑顔を見せた。
「何か仰々しいアドバイスをするというより、話を聞いてほしくてやってくるお客様も多いものですよ」
「へえ。そんなもんですか」
「君も、あと十年すればわかるようになります」
「十年ですか。あ、でも僕、来年の春には就職してここにいないっすよ」バイトは楽しいっすけど、と氷をくるりと回す。
「そういう事ではなくて」と再び柔和な笑みを浮かべたマスターにつられて、若いバーテンダーも「そうっすね」と歯を見せた。
穏やかな時間の流れたその日の翌日から、現代日本で使われていた暦を基準にして、七日七晩。豪雨が吹き荒れ、山が火を噴き、空からはいくつもの、あらゆる大きさの星の欠片が降った。
八日目の朝。静寂が支配する水面に、一人の男が立っていた。
「さあ、ここからやり直していこう。ひとつずつだ」
サトウを名乗っていたソレは呟き、力強く、使命感に溢れた調子で歩き出す。
満足げな、そして決意に満ちた表情を浮かべて。
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