神様のいるバー

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「私はこう見えて、いわゆる経営者というやつでして。適材適所を考え、しっかりと配置して、後は各々の自主性に任せて、良い方へ向くようにというスタンスでやっておりました」 「大変なお仕事ですね」と返して続きを促した神崎の落ち着いた様子は、佐藤を安心させ、その舌を更に滑らかに動かした。  実際には、ぶつ切りにされた佐藤の話を、神崎が頭の中で反芻している部分も大きかったのだが、佐藤はそれには気が付いていないようだった。 「子供にしても、出来れば自主性に任せたいと……やあ、これは」  ショートカクテルを一息に飲み込もうとして、佐藤は思わず苦い顔をして咳き込んだ。  なんて事をするのだと訴えかけるような顔に、若いバーテンダーは内心でちくりとしたものを覚える。きつい一杯を、との注文を忠実に果たした神崎さんに罪は無いのに。 「しかし、これがどうも上手くいかない」 「と、言いますと?」  水を含み、口いっぱいに広がったアルコールを散らそうと首を振る佐藤に、あくまで冷静に神崎が答える。 「予想外の事が起きるんです。まさか、そっちにいってしまったか、とこうなるわけです」  神崎の相槌を待たずに、「それがまた、実に多い。こんなはずではないと配置を組みかえれば、組みかえた先でまた問題が起きる」と早口で続け、佐藤はおかわりを注文した。喉に染みた割には、気に入ったらしい。 「子供にしてもそうです。かわいいのは間違いないんですがどうにも。親の心子知らずと言うんでしょうか」 「喧嘩も絶えなくてね、仲良くしていると思って目を離していると、次にはもう大喧嘩をしているんです」  カクテルをシェイクする小気味良い音の響く中、佐藤はそれに負けじといっそう早口になる。  まだ小さい子供がいるのかな、と想像をめぐらせたのだろうか。神崎が天井に目線をやり、それから二杯目のカクテルを洗練された動作で差し出す。  若いバーテンダーは、音を出すとくねくね動くあれに似ているな、と佐藤が鉢植えの上で必死に口を動かしているところを想像する。手元が狂い、まんまるではなくなった氷に「あ」と声が漏れた。
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