黄昏ベイビー

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「一ヶ月かぁ・・・・」  誰もいない放課後の教室。  机の上にダラリと身体を預けて、ぼんやりと携帯電話を見つめた。 「・・・・一ヶ月って長いよなぁー・・・・」  表示された番号を見ながら、深いため息を吐く。  電話もなければメールもない。  マメなタイプじゃないことはわかっていたけど、それでも、やっぱり気になる。 「会いたいんだけど、な・・・・」  一ヶ月は自分にとってすごく長すぎて。  嫌なことばかり考えてしまって。  どんどんマイナス思考。  こんなの自分らしくないってわかってるのに。  いつでもバカみたいに能天気に笑ってるのが自分なのに。  普段なら、この通話ボタンも簡単に押せてしまうのに、いまはそれができない。  何度も押しかけたけど、表示された名前を見つめるだけで手は止まってしまう。  そう、現にいまだって・・・・。 「電話?」 「うわッ!」  頭上から突然聞こえた声に、驚いて飛び起きた。 「あっれ?智紘?」  眼をパチパチと瞬かせると、智紘は「ゴメン、ゴメン」と笑いながら、驚いた拍子に床に落としてしまった携帯を拾い上げてくれた。 「脅かすつもりはなかったんだけど・・・・ああ、黒沢?」  表示されたままの名前を見て、智紘はにこりと笑った。 「ううん・・・・」  携帯を受け取りながら小さく呟くと、智紘は首を傾げた。  会えなくても、声だけでも聞きたい。  ほんの一分だけでいいから、話がしたい。  でも、やっぱりそれすらできなくて・・・・。  ただ、こうやって毎日繰り返し表示させる名前をぼんやりと見つめるだけ。
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