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「保健委員会、珍しく早いね」
「え?」
「嶋本センセ、いつも話長いでしょ」
いつのまにか向かいの席に座った智紘が、にこりと笑う。
そう、今日は委員会の日で。
本当なら、話好きの保険医の面白話を笑いながら訊くはずだったんだけど。
「うん。シマちゃんセンセ、今日用事あったみたい」
「そっか」
「智紘こそ、珍しく遅いよね?図書委員会長引いた?」
「ちょっとね。返却されない本について、先輩たちが熱い討論を繰り広げてねー」
「へえ、大変だね」
ちょっと暑苦しかった、とぼやく智紘におもわず吹き出した。
ケラケラと笑う自分を見て、智紘はゆっくりと微笑んだ。
「・・・・で」
「ん?」
「委員会が早く終わったのにも関わらず、こんな時間まで居残ってる理由は?」
「え・・・・」
そういわれて、ちょっと息を呑んだ。
そんな様子にも智紘は、にこりと笑って、悟の手の中にある携帯を指差した。
「かければいいじゃない」
話がしたいんでしょ?といわれて、もう一度携帯電話に眼を落とした。
相変わらず表示されている名前を見て、小さく首を振った。
「・・・・かけれないよ」
「どうして?」
「・・・・怒られるもん」
俯いてガクリと肩を落とした。
智紘はきょとんとした表情をして、首を傾げた。
「電話して怒られたの?」
「怒られたわけじゃないけど・・・・仕事中だったみたいですぐ切られちゃった」
「タイミングが悪かっただけでしょ?」
「・・・・そうだけど」
でも、すごく不機嫌そうだった。
夜十時過ぎでもまだ会社で仕事をしていたらしい黒沢に、「仕事中だ」と冷たく言い放たれて、切られた。
能天気に電話した自分が悪いんだけど・・・・。
それでもあれからなんだか恐くて、一度も電話していない。
「それっていつの話?」
「・・・・一ヶ月前」
「一ヶ月?」
智紘は驚いたように眼を見開いた。
「もしかして、一ヶ月も連絡してない?」
「・・・・うん」
「黒沢からも電話ないの?」
「・・・・・・・・うん」
なんだか訊かれているうちに悲しくなってきて、さらに項垂れた。
智紘は呆れたように息を吐いて、髪をかきあげた。
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