45人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺、見送りいく!」
『え?でも悟、彼の家にいるんでしょう?大丈夫なの?』
「全然平気!」
黒沢の家から自分の家までは走って三十分くらい。
急げば充分間に合うはず。
それに、彩華とは今度いつ会えるかわからないから。
会えないままバイバイなんてしたくない。
『うれしいわぁ、悟に会えないまま向こうに戻るなんて寂しいって思ってたのよぉ』
電話越しで彩華が本当にうれしそうに笑った。
同じ気持ちでいてくれたんだって思ったら、なんだか自分もうれしかった。
「すぐいくから、待ってて!」
わかったわ、と笑う彩華の声を聞いて、通話を切った。
とりあえず急いで帰らなきゃ。
わたわたと携帯をポケットに押し込めながら、顔を上げた。
「ごめん!黒沢!俺、帰らなきゃ!」
やっと会えたのに名残惜しいけれど・・・・。
けど、そんなことをいってる場合じゃないから。
それじゃ、とベッドから降りようとした瞬間、伸びてきた手に腕を掴まれた。
「ほえ?」
「ちょっと待ってろ」
「へ?」
変な姿勢で固まった自分の横を、ベッドから降りた黒沢がすり抜けていく。
なにがなんだかわからなくて、おもわず寝室から出ていった黒沢の後を追った。
「ねー、黒沢ー」
洗面所で歯を磨いていた黒沢のパジャマの裾を慌てて掴んだ。
「俺、急いで帰らなきゃいけないんだよ。母ちゃんが、イテッ」
突然額を指で弾かれ、涙目で顔を上げると同時に、歯ブラシを咥えたまま眉を寄せた黒沢にずるずると引き摺られて、 そのままリビングのソファーに放り投げられた。
「なに~~?」
問いかけてももちろん返事はなくて、そのまま黒沢はさっさと洗面所に戻ってしまう。
弾かれた額を手の甲で擦って、首を傾げた。
とりあえず、大人しく待ってろってことなんだろうけど。
でも、いまの自分には時間がなくて。
だからといって、黒沢に逆らうこともできないわけで。
すぐに洗面所から出てきた黒沢が、再び寝室へ入っていく。
それを落ち着かない気分のまま眼で追いながら、何度も時計を確認した。
最初のコメントを投稿しよう!