黄昏ベイビー

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「俺、見送りいく!」 『え?でも悟、彼の家にいるんでしょう?大丈夫なの?』 「全然平気!」  黒沢の家から自分の家までは走って三十分くらい。  急げば充分間に合うはず。  それに、彩華とは今度いつ会えるかわからないから。  会えないままバイバイなんてしたくない。 『うれしいわぁ、悟に会えないまま向こうに戻るなんて寂しいって思ってたのよぉ』  電話越しで彩華が本当にうれしそうに笑った。  同じ気持ちでいてくれたんだって思ったら、なんだか自分もうれしかった。 「すぐいくから、待ってて!」  わかったわ、と笑う彩華の声を聞いて、通話を切った。  とりあえず急いで帰らなきゃ。  わたわたと携帯をポケットに押し込めながら、顔を上げた。 「ごめん!黒沢!俺、帰らなきゃ!」  やっと会えたのに名残惜しいけれど・・・・。  けど、そんなことをいってる場合じゃないから。  それじゃ、とベッドから降りようとした瞬間、伸びてきた手に腕を掴まれた。 「ほえ?」 「ちょっと待ってろ」 「へ?」  変な姿勢で固まった自分の横を、ベッドから降りた黒沢がすり抜けていく。  なにがなんだかわからなくて、おもわず寝室から出ていった黒沢の後を追った。 「ねー、黒沢ー」  洗面所で歯を磨いていた黒沢のパジャマの裾を慌てて掴んだ。 「俺、急いで帰らなきゃいけないんだよ。母ちゃんが、イテッ」  突然額を指で弾かれ、涙目で顔を上げると同時に、歯ブラシを咥えたまま眉を寄せた黒沢にずるずると引き摺られて、 そのままリビングのソファーに放り投げられた。 「なに~~?」  問いかけてももちろん返事はなくて、そのまま黒沢はさっさと洗面所に戻ってしまう。  弾かれた額を手の甲で擦って、首を傾げた。  とりあえず、大人しく待ってろってことなんだろうけど。  でも、いまの自分には時間がなくて。  だからといって、黒沢に逆らうこともできないわけで。  すぐに洗面所から出てきた黒沢が、再び寝室へ入っていく。  それを落ち着かない気分のまま眼で追いながら、何度も時計を確認した。
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