黄昏ベイビー

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「あ、母ちゃんだ!」  もう少しで我が家、というところで、家の前で立ち話をしている彩華の姿が見えた。  一緒に話しているのは真人だ。  そのまま車を道路脇に停めてもらって、急いで車を降りた。 「母ちゃん!」  駆け寄りながら大きく手を振ると、談笑していた二人がこちらに顔を向けた。 「あ、悟ー!おかえりー」  大きく手を広げた彩華にそのまま飛びかかった。  ギューッと抱きしめられると、やっぱり甘い香り。  額に落ちてくるキスに、くすぐったくて笑うと、彩華もうれしそうに笑った。 「もういくところだった?」 「うん、悟がきたら車呼ぼうと思ってね。それまでまーちゃんとお話してたのよ」  ね?と彩華が真人に視線を向けると、真人は小さく苦笑を洩らした。 「でも意外と早かったのね。走ってきたの?」 「え?ううん。送ってもらったんだ」 「あら」  視線を自分の後ろに向けた彩華につられて振り返ると、車を降りてこちらに歩いてくる黒沢が見えた。 「もしかして、悟の彼?」 「えっと・・・・」  彼っていっていいのかどうかはやっぱり微妙で。  なんというべきか迷っていると、斜め後ろに立った黒沢が自分に視線を落とした。  眼が合うと、僅かに眼を細めて自分を見た。  そして、すぐに興味深そうに黒沢を見ている彩華に視線を向けた。 「はじめまして。黒沢です」  そういって小さく頭を下げた黒沢を見て、自分は眼を瞬かせ、彩華は眼をキラキラとさせて歓喜の声を上げた。 「アラアラ、マァマァ!」  そう叫びながら、彩華は突然後ろに立っていた真人の腕を力いっぱいバシバシと叩いた。 「やっだー!ちょっとまーちゃん!」 「彩華さん・・・・痛いんですけど」 「こんなにイイ男だなんて一言もいってなかったじゃなーーい!」 「べつにそんなこという必要ないでしょ・・・・」  痛いからなのかなんなのか、真人は面白くなさそうに顔を歪める。  彩華はそんな真人にトドメとばかりにデコピンを食らわせて、すぐに黒沢に満面の笑みを向けた。 「ごめんなさいね。改めて、悟の母です。いつも悟がお世話になってます」  ニコニコと挨拶をする彩華に、黒沢は珍しくも微笑んで「いえ、こちらこそ」と小さく呟いた。
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