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「どうぞ」
車に向かって手を差し伸べる黒沢に、彩華は一瞬きょとんとした表情をして、そして自分を見た。
その視線の意味がわからなくて小さく首を傾げると、彩華は自分をじっと見つめて、ゆっくりと微笑んだ。
とてつもなくやさしくて、泣きたくなるくらいうれしそうな微笑み。
「母ちゃん?」
はじめて見るような笑みに、戸惑い気味に呼ぶと、彩華はいつものようににこりと笑って、高い位置にある黒沢を見た。
「ありがとう」
彩華の言葉に、黒沢は穏やかに眼を細めて、車に向かって歩き出した。
眩しそうにその背中を見つめる彩華の眼は、やっぱりいつもとは違って見えた。
「さぁ、悟。いこっか!」
元気よく背中を叩かれ、おもわず前によろけた。
うん、と頷くと、彩華はうれしそうに笑って、黒沢のあとを追った。
ミニスカートから伸びる長い足が、心なしか弾んで見える。
あれは幻だったのかな?
とても大切なものを見るように黒沢を見つめた彩華の眼が、なんだかとても印象的だった。
「なにぼーっとしてんだよ」
腕組みをして家の門に寄りかかってこちらを見ていた真人が、呆れたように呟いた。
「え・・・・?あ・・・・」
なんだか少し放心状態。
うまく説明できないけど、不思議な感覚だ。
真人は相変わらずのつまらなそうな表情で彩華たちを見ている。
車のトランクにスーツケースをしまう黒沢の傍らで、彩華はにこにこと笑っている。
彩華が話しかけると、黒沢は穏やかな眼を向ける。
少し、笑っている。
なんだろう。
やっぱり不思議な感じだ。
「まあ、少しは見直したかな」
「へ?」
意味がわからなくて首を傾げると、真人はちらりとこちらを見て、すぐに彩華たちに視線を戻した。
言葉を交わしながら車に乗り込む二人を見て、僅かに首を捻った。
「俺もまさか送ってくれるとは思ってなかったけどさー。けどいいのかなぁ?なんか足に使ってるみたいじゃない?」
ね?と、同意を求めると、真人は呆れたように息を吐いた。
「アホ、そっちじゃねえよ」
「へ?」
じゃあ、いったいなんのこと?
真人の言葉の意味がわからなくて、さらに首を捻った自分を見て、真人はやっぱり呆れ顔。
けど、少しうれしそうに眼を細めた。
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