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激しいエンジン音がだんだんと小さくなっていく。
雲ひとつない青空に浮かんだのは、どこまでも続く飛行機雲。
大空に向けて振りかざしていた両手をそっと下ろして、眩しいくらいの青に残るその白い雲の流れに眼を細めた。
長く、そして果てしなく続くその痕跡は、大切な人の行く道を示している。
「見えたかな?」
両手を振って「またね」って伝えたこと。
数ヵ月後に、また綺麗な笑顔でギュッと抱きしめてね、って願ったこと。
伝わっただろうか。
黒沢の指先から、ふわりと紫煙が舞う。
ゆっくりと煙を吐き出しながら、黒沢は小さく「たぶん、な」と呟いた。
漂う紫煙は、大空に向かって舞って、まるであの雲にたどり着いているかのような気がした。
「母ちゃんとなに話してたの?」
空港の屋上は、運がよいのか自分たち以外誰もいない。
凭れかかった自分の体重で、フェンスがガチャンと音を立てた。
空港に着いて、搭乗手続きなどはすべて自分が行った。
その間、黒沢と彩華は二人でずっと話していて。
人で溢れる空港内を行き来しながら、時折笑いあう二人の姿を自分はチラチラと眺めていた。
ああ、と思い出したように呟いた黒沢の口元は微かに綻んでいる。
なんだろう?と首を傾げると、黒沢は短くなった煙草を一口吸い、それを手にした携帯灰皿に押しつけた。
「・・・・おまえに似てるな」
「え?」
よく見ると、黒沢はちょっと笑ってる。
そんな表情はすごく珍しい。
「うん!俺、昔から母ちゃん似だっていわれるんだ。父ちゃんとは髪の毛しか似てなかったんだって」
大きな瞳も、鼻の形もすべて彩華にそっくりだって昔からよくいわれていた。
写真で見る限り、父親と似ているのはクセっ毛で色素の薄い髪の毛くらい。
「顔じゃねえよ」
「へ?」
そういわれておもわず首を捻った。
じゃあ、いったいなにが似ているんだろう?
そんな自分に視線を向けて、黒沢はゆっくりと眼を細めた。
「えー?わかんないよ。なにー?」
身を乗り出して訊いてみるけど、黒沢は教えてくれるつもりがないらしく、「わからなくていい」とだけ呟いた。
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