黄昏ベイビー

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「・・・・この前も、べつに怒ってたわけじゃない」 「え?」 「会社がトラブって揉めてたんだよ。ウザくて切ったわけじゃない」 「あ・・・・」  一ヶ月前の電話のことをいっているんだろう。  あのとき、黒沢の周りは妙にガヤガヤしてて、黒沢の声もいつもと少し違ってた。  でも、そのことを教えてくれるとは思っていなくて、少し驚いた自分の頬を黒沢の手が滑った。 「かけ直そうとしたけど、帰るのが毎日午前様で、」  僅かに腰を屈めて、黒沢が悟の耳元でそっと囁いた。  触れるか触れないかの位置で吐息が洩れる。 「・・・・てっきり怒っているか拗ねているかのどちらかだと思ってたけど、まさか泣いていたとは予想外だった」 「ッ!!」  クスッと小さな笑い声が直接耳に吹き込まれて、一瞬で顔にボッと火がついた。 「だ、だってッ!」  たぶん耳まで真っ赤に染まっているんだと思う。  片方で頬を撫でられ、その反対側には触れるか触れないかの位置で黒沢の唇。  こんな挟み撃ちなんてズルイ。  ギュッと黒沢のシャツを引っ張って、至近距離にある黒沢の顔を睨んだ。 「だって、会いたかったんだからしょーがないじゃん!!」  会いたくて会いたくて堪らなくて。  会いたいって思うほど、寂しさが倍増していって、しかたなかったんだから。  こんな真っ赤な顔して凄んだって全然迫力がないのはわかってるけど、だけど、しょうがない。  本当に会いたかったんだから。  そんな自分を見て、黒沢は一瞬眼を丸くして、けれど、その眼はすぐにゆっくりと細められた。 「え、なにっ?」  突然肩を抱かれ、おもわずよろけた自分に構うことなく、黒沢は歩き出した。
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