28人が本棚に入れています
本棚に追加
我ながらとんでもない言い訳だが、他に何も思い付かなかった。暫し妻は呆れた様子で私を見ていたが、やがて何かを吹っ切るかのように、私の腕を取って歩き出した。
公園に差し掛かった。いつもハーレイとひと休みする公園である。午後の優しい陽射しのもと、子どもたちが楽しそうに遊んでいる姿があった。笑いながら走り回っている者、ブランコに揺られている者、キャッチボールをしている者──
ボールが大きく逸れて、私たちのほうに向かって飛んできた。緩やかな放物線を描いて芝生に落ちたボールは、そのままころころと転がってくる。
「ねえ、あなた」
「うん?」
腕を引っ張る妻に一瞬気を取られたが、私の目はボールに釘付けだった。
「授賞式が終わったら、そのまま北欧を旅行しません? このところどこにも出掛けてませんでしたし」
「ああ、そうだな……」
転がってきたボールは、走ってきた少年の手によって掬い上げられた。
「北欧、それかどこだっていいわ、あなたと一緒なら。ねえ、あなたはどこか行きたい場所はあって?」
「うーん、そうだなあ、イタリア、フランス、スペイン、ポルトガル、ボール……」
「え、ボール?」
少年が、遠くに佇む少年に向かって、思いきりボールを投げた。と同時に、私はボールめがけて走り出した。
最初のコメントを投稿しよう!