いぬらー

2/14
前へ
/14ページ
次へ
何もただ自分の興味だけで行動に移したわけではない。まるで興味がなかったと言えば嘘になるが、そもそも学者どもの研究など己のちっぽけな好奇心を満たすことから始まるのだ。 ひとつの好奇心を存分に満たした私は、ナントカという賞の授賞式に出席すべく、出国を1週間後に控えて、満足感と心地好い疲労感と、僅かばかりの虚無感に浸っていた。 虚無感──そう、私は空虚だった。好奇心を満たしている間は、それこそ食事をするのも、睡眠をとることさえも忘れ、ただそれだけに没頭していた。だが、結果が出てしまった今、私に残されたものは何もない。何もないのだ。 朝7時。いつものように妻が私を起こす。洗面と着替えを済ませると、愛犬のハーレイがいつの間にか私の足もとに座って、灰色の尻尾をぱたぱた振っていた。 サルーキーの、そのすらりとした外見に魅せられたのは、妻だったか、それとも私か。ともかく、3歳という気力も体力も有り余っているこの大きな坊やを、朝夕1時間ずつ連れて歩かねばならない。研究中は妻が散歩させていたが、今ではそれが私の唯一の仕事だ。 「散歩へ行くかい?」 少々わざとらしくそう尋ねるが、ハーレイは全く意に介した様子もなく、嬉しそうに口角を上げた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加