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事務所のガラス扉の横には『杉本モータース』と、書かれた古びた看板が掲げられていた。
「ご苦労さん。暑かったでしょう。早くしないとアイスがもう溶けちゃうわ」
「うわぁ、ホントだ」
開け放たれた事務所からは話し声と笑い声が交互に聞こえてきた。
私は溶けかけたアイスを囲む笑顔たちをぼんやりと見つめていた。
そのうちに、恰幅のいい女性が首に掛けた手拭いで汗を拭きながら表に現れた。
私には先程の声の持ち主だとすぐにわかった。
「暑い日ねえ。あなたも休んでいったら?」
奥さんが私を招き入れようと、手招きして中へ戻った。
……そんなに物欲しそうに見えたのだろうか……
少しムッとする私に彼女は振り返ってたっぷりと微笑んだ。
「さあ、いらっしゃい」
私は唇を尖らせたまま吸い寄せられるようにそこに足を踏み入れた。
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