別れと出会い

6/30
前へ
/30ページ
次へ
外から聞こえる蝉の声がうるさい。 短い命の叫びを聞きながら、ご主人と奥さんは日常のたわいもない会話を始めた。 近所のおじいさんが入院したので見舞いに行くだとか、 夕飯は何にするだとか、 洗濯機の調子が悪いだとか。 『こんなところで何してるんだ?』とは、誰も言わなかった。 高三の夏。 とりあえず決まった進路は 『進学しない』ということだけ。 なりたい職業があるわけでもなく、就職活動にも身が入らず 高二の夏とほとんど同じ夏を送っていた。 だからといって、不安がないわけじゃない。 だけど、私はそんな先の未来より、 明日の方が不安だった。 私はそんなことを考えながら夫婦の会話を聞き、 氷菓子を食べ終わる頃にはある決意を固めていた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

751人が本棚に入れています
本棚に追加