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私は呆然と立ち尽くしていた。
どうして自分がそんなことを言われなければならないのか、憤りはあったが、それ以上に落胆していた。
何よりもショックだったのは『私から誘っている』と言われたことだった。
もちろん、いわれのないことだ。
けれど、自分には……あの女の血が流れている。
あの女とはもちろん、男のために生きて、男のためにダメになったあのヒトだ。
私は既に彼女を母親とは思っていない。
そればかりか、あのヒトの娘であることを記憶からも消してしまいたいほどなのに、
こうやって時々その事実を思い出さなければならないのだ。
杉本夫妻の元で過ごすうちに、自分は【普通】になったつもりでいたが、
やはり、血は争えないのだろうか。
杉本夫妻にもどこか申し訳ない気持ちが生まれ、苦痛で顔が歪んだ。
私はビスの箱を手にすると、階段を重い足取りで上り電気を消した。
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