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「そっか。ごめん、これと言って用はないんだけどね」
『なんだ、寂しくなっただけ?』
菜々美は笑い、電話の向こうに「うちのお姉ちゃん、寂しがり屋だからさぁ」と、余計なことまで報告した。
「ちょっと、変なこと言わないでよ。……元気そうでよかった。頑張って」
『うん。お姉ちゃんも元気出しなよ』
「……十分元気だよ。じゃあ、またね」
『うん、じゃあね』
二人は短い会話を終えた。
「バレバレか……」
私はスマホをテーブルに戻しながら鼻で笑って呟いた。
短い電話だったが、話し足りないという感覚もない。
私にとっては十分だったようで、菜々美の声を聞いて、先程よりもさらに気持ちは和らいでいた。
けれど、一方では寂しさが募る。
家族の温もり……杉本夫妻を思い出したからだ。
私はふと時計を見ると、思い立って放っていた顔の手入れを始めた。
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