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安物の化粧水と乳液で肌を整えると、ほんの気持ちばかりの眉毛を書き足した。
九月の半ば、残暑といえどもまだ夏を味方にして夜も熱気で包まれている。
私がジーンズと履こうとして思いとどまり、薄手の綿のロングスカートを履くと、Tシャツに着替えた。
濡れた髪の半分は夜風に任せようと思い、髪を雑に乾かして、飲みかけのビールを残して部屋を出た。
私はアパート近くの馴染みのラーメン屋に足を向けた。
線路沿いにあるカウンター席だけの小さな店だ。
「いらっしゃい、みっちゃん」
疲れた顔で店に入った私を、エプロン姿の奥さんがいつもどおりに迎えてくれた。
私はその笑顔を見てやっぱり来て正解だったと顔の筋肉を意識的にほぐした。
奥では店主が狭い厨房で忙しなく動き回っている。
私はここに来ると杉本夫妻を思い出すのだ。
最初にここを見つけた時から、ここに来れば二人に会えるような気がしてつい足が向くうちにいつの間にか常連になっていた。
この日はまるで私を待っていてくれたかのように、
定位置であるカウンターの一番奥が空いていた。
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