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そして、いつか訪れるだろうと覚悟していたその日は、
思いのほか早くやって来てしまった。
杉本モータースの倒産。
抵当権の担保に入っていた工場は、売却して借金の返済に充(ア)てられることになった。
それでも建物の取り壊しなどに費用がかさむため、十分なお金にはならず、離を含めた自宅も泣く泣く手放すことになった。
自分たちが築き上げてきたものが何もなくなったその時でも
ご主人は私に笑っていた。
「なんとか自分たちで幕が引けてよかったよ。他人に尻拭いしてもらうのはごめんだからな」
心底安堵していたその笑顔は、決して薄っぺらい強がりなんかじゃなかった。
「でも……美香子ちゃんには迷惑かけちゃったわね」
奥さんの言葉に私は首を横に振った。
「私はいいよ。他人じゃ……ないんだから」
奥さんは顔を両手で覆って肩を震わしていた。
ご主人は自分の頭を抱えるように体を丸め、ぐしゃぐしゃと頭を掻(カ)いていた。
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