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そんな最中(サナカ)、夫妻はすぐに私の住むアパートと職場を探してくれた。
自分たちの寝る場所を心配しながら、
何よりも先に、私の居場所を見つけてくれたのだ。
アパートは二階建ての角部屋で1DK。
少し古いけれど、日当たりがいいという理由で奥さんが決めてくれた。
「部屋が明るいと、気持ちが明るくなるでしょう?」
サッシを開けて微笑む奥さんを見て、
一瞬にして私もこの部屋がとても居心地のいい場所に思えてしまった。
サッシから差し込むあたたかい日射しは
彼女の優しさそのものだと思った。
部屋には離から運び出した最小限のものを置き、足りないものをわずかに買い足した。
二十六歳にして初めて一人暮らしとなった私にとって、
一人は自由である前に孤独だった。
杉本夫妻が恋しくなり、妹の菜々美にでさえ泣きつきたくなる。
そんな夜は頭から布団を被り、一人でベッドでうずくまった。
私は今まで泣き言を口にしたこともなかったし、
泣いたこともほとんどない。
『さびしい』
などと、口にしたことは……
……一度もなかった。
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