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私は不思議な感覚に陥っていた。
私がこの店に訪れるのは、大抵の場合、一人になりたいと思いながら実はなりたくない時だ。
このあたりの説明は難しいけれど、
一人になりたいのに、一方では誰かにそばにいて欲しい……
そんな説明のつかない時がたまにある。
杉本夫妻と離れてしまい、菜々美もそばにいない。
私が唯一寄り添えるのがこのラーメン屋の夫婦だった。
もちろん、それは私が勝手に思っているだけのことだけど。
この店の夫婦だけがラーメンの湯気に混じって温もりを分けてくれるような気がしていた。
そんな私はここで他の客に関わることほとんどない。
狭い店なので今日のように誰かと隣り合うのはよくあるけれど、会話はせずにあくまでも一人客を貫いている。
ましてや自分から誰かに関わったことなんて一度もなかったのだ。
それが今日はいったいどうしたことだろう……。
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