一夜

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ビールから遅れて出されたラーメンと巻き寿司は いつもはぺろりと食べてしまうのに、 この日は三巻ある巻き寿司を一つ食べただけで、 残り二巻には手が伸びなかった。 「食べないんならもらっていい?」 最初のかしこまった空気はとうに消え去り、 瓶ビールは二本目を開けていた。 彼は私のお皿から巻き寿司を箸でつまんで口に入れた。 「旨い。いい店見つけた」 彼はもぐもぐと口を動かしながら店内を改めて見回した。 「でしょ?だけど……、まだ誰も誘ったことないんです」 「どうして?」 「ここに居る時は、誰にも邪魔されたくないから」 「へえ、じゃあ邪魔しちゃった?」 私はハッとして慌てて首を横に振った。 「あ、ごめんなさい! そういう意味じゃなくて」 「いいよ。わかってる」 彼は私の言葉に少しも気を悪くした様子はなく、微笑んでいた。 私は自分の言葉に反省しながら心の中ではホッとしていた。
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