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リビングでは俺のことを追おうとする母を親父が引き止めたに違いない。
パタパタと駆けるスリッパの音は途中で止まった。
俺はいつものことなので気にもしない。
その時だった。
靴ベラを手に靴に足を滑らせると背後で声がした。
「お兄ちゃん」
妹の凛子(リンコ)が二階から降りてきたところだった。
「凛子か……」
「やだ、久しぶりに帰って来てたと思ったら、人の顔見てため息つかないでくれる」
「別についてないだろ」
俺はぶっきらぼうに返事をした。
「兄貴と葉子さんは上手くいってないのか?」
「ずっと前からね。サト兄がなんで別れないのかわからない。サト兄が可哀想すぎるよ」
凛子は思いつめたような表情で視線を落とした。
俺は思わず眉をひそめた。
凛子のこんな顔を見たことがなかったのもあるが、
何か違和感のようなものを感じたからだ。
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