足りない酸素

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「きれい……」 私はマネキンが着ていたニットワンピースに手が伸びた。 ワインレッドよりもさらに深い赤色だった。 少しだけ欲が出て、私はワンピースの内側から隠れていた値札を取り出した。 けれど、サイズと一緒に値段が目に入ると、咄嗟に手を離してしまった。 とてもワンピース一着に出せる値段ではなかった。 「こちらのお色、とても人気でもうこちらの一点だけしか残ってないんですよ」 商品のアピールに余念のない店員は、目の前のワンピースと色違いのものを纏っていた。 「お似合いだと思いますよ。ご試着なさいますか?」 店員がワンピースに手を掛けたので私は慌てて首を振った。 「いえ、すみません、もう少し見させていただきます」 「そうですか。ごゆっくりどうぞ」 私が店員に背を向けて苦笑いを隠すと、離れていた彼が私を呼んだ。 「カコ」 私は声を探して小走りに彼のもとに向かった。
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