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俺はソファに座り、ウィスキーの水割りをつくった。
「っとに、情けねーよな」
兄貴の持ち上げたグラスの中で月の光が反射した。
「ガキの頃から何でも親父の言うとおりにしてきて、結婚だけは唯一自分で決めたのに、案の定……失敗だもんな」
兄は息継ぎをするように酒をあおった。
「失敗かどうか、親父が勝手に終わらせたんだろ」
「失敗だったさ。見てのとおり。葉子は結婚するとき言ってたんだ。自分も俺や親父のために会社に少しでも貢献したいって。だけど、振り返ってみれば、俺は仕事の話さえ葉子にはしなかった。
俺はいつも親父と比べてダメだって思ってたし、自分の不甲斐なさを葉子には見せたくなかったのかもな」
兄は自嘲気味に笑った。
「俺は葉子には何もしてやれなかった。驚くだろ? 葉子が買ったブランド物はそっくりそのまま部屋に残ってる。葉子が欲しかったのは金なんかじゃなかったのに、誰もそんな風には思わなかった」
兄貴は後悔の念を鷲掴みするように、髪をぐしゃりと握った。
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