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「今回のことで……親父はまた実感しただろうな」
「……何を?」
「俺が何をやってもダメだってこと」
「何言ってんだよ」
俺は口に運びかけたグラスを膝に戻した。
「親父がお前を諦めきれない理由もそこだろうな。俺じゃ頼りないんだよ」
その言葉に言いようのない悲しみが込み上げてきた。
「そんなことあるわけねーだろ。兄貴がどんだけ家や会社のためにやってきたと思ってんだよ!?」
兄貴はソファの背もたれにゆったりと全身を預け、大きく息をついた。
そして、この時になって初めてガラス越しに夜空を見上げた。
「ホントに今日は月が綺麗だな……」
月の淡い光が照らした兄の頭髪には銀色の細い針金のような髪が混じっていた。
急に目頭が熱くなる。
俺は気を紛らわすように髭のそり残しなどないのに、自分の顎を何度もさすった。
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