足りない酸素

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「お前だって気づいてたんだろ? だから……」 兄貴は小さく笑った。 「だから、わざと親父に反発して違う道を選んだ。……俺に気を遣ったんじゃないのか?」 「んなわけねーだろ」 俺はグラスを握りしめる。 「学……」 「ん?」 「お前、何も言わないから」 「何だよ?」 「ガキの頃からなんにも言わねーじゃん。なんか悟ったみたいにさ。まあ、真ん中は要領いいっていうけどな」 兄は何かを思い出したように笑った。 「お前は本当にやりたいことやっていいんだぜ」 「兄貴がそれ言うのかよ」 俺も笑った。 「俺は好きなことやってるよ。家のこともほっぽりだして、兄貴に全部押しつけて。……ワリーと思ってる」 「バーカ。そんなんじゃないだろ」 そして、しばしの沈黙の後、兄貴が言った。 「お前……いい人いるのか?」
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