足りない酸素

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俺はグラスの中で一回り小さくなった氷を揺らした。 月のほのかな光は沈黙でさえ優しく包んだ。 「……まあな」 俺は静かにグラスを置いた。 兄貴は俺のグラスを見るとクスリと微笑んだ。 俺のグラスの中身は少しも減っていない。 兄貴と夜更けまで飲むつもりでいたのに、酒が喉を通っていかなかったのだ。 白い光で霞んだ月を見た時、 その月が一人アパートに残してきた彼女に思えたのだ。 一人寂しく、理由も明かされずに置いてきぼりにされた彼女は、それに苛立つこともなく、半分あきらめたように微笑んでいた。 自分が戻らなければ、 彼女がいなくなってしまうような気がした。 あの月が…… 暗闇にのみ込まれてしまうように。
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