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その声にぼやけていた意識がはっきりと輪郭を成した。
「ガクちゃん……?」
私はベッドの上を這って降りると、まだ力の入らない足で玄関に向かった。
彼は合鍵を持っていない。
合鍵を渡す仲ではないからだ。
「ガクちゃんなの……?」
こんな時間の訪問者に、普通なら用心しなければならないはずが、私はそんなことも忘れてドアの向こうに話しかけていた。
眠気はすっかり覚めて鼓動が早まっていた。
「起しちまったか?」
ドアの向こうから申し訳なさそうな彼の声が聞こえた。
私は慌てて鍵を開け、ドアノブを回した。
「……ガクちゃん……」
ドアを開けると、まだ朝になり切らない灰色の空を背景にして彼が立っていた。
逆光で陰りを見せた顔がなんだか疲れているようだった。
「おかえり……」
私は彼を部屋の中に入れた。
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