足りない酸素

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私は彼のズボンにアイロンをかけ、その間にも何を着ていこうかと必死に悩んだ。 実際のところ、悩むだけの数も種類も持ち合わせていなかったが、久しぶりの彼との外出に少しだけパニックを起こしたのかもしれない。 結局、私は履き慣れたジーンズに唯一外出用にしている黒のシフォンブラウスを合わせた。 ファッションに興味がないわけではなかったが、毎日工場と家との往復で、彼と会うのも限られた場所だけなので服装に気を遣う必要性もほとんどなかったのだ。 古びたアパートの中でお洒落をしてみても滑稽なだけ。 色味もいつも地味なものを選ぶクセがついていて、私が持っている洋服の大半は黒かグレーだった。 「ごめん……。こんな服しかなくって。いっつも黒ばっかりで。ガクちゃんが恥ずかしいよね?」 私は玄関の鍵を掛けて振り返ると苦笑いを浮かべて謝った。 「いや、全然。カコには似合ってるよ。それに、黒はいい女にしか似合わない」 彼は笑って風に翻る私のブラウスの袖に触れた。
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