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私たちは彼の車に乗り込んで出発した。
たわいもない会話を重ねながら、彼は車を一時間ほど走らせ、珍しく街の中心部へ向かった。
「どこ行くの?」
いつもと違うことに緊張はしたものの不安はなかった。代わりにほんの少しの期待が入り混じる。
「買い物。カコも新しい服欲しいだろ?」
彼の無邪気な笑顔に私は少しだけ頬が硬くなった。
やはり、彼が私の恰好を気にしていると思ったからだ。
けれど、彼はその笑みをたたえたまま百貨店の地下に車を滑り込ませた。
百貨店の中は太陽よりも眩しい。
彼は私をエスカレーターに乗せ、五階のレディースファッションのフロアに向かった。
白い蛍光灯に照らされて、マネキンが身に着けた洋服はどれも輝いて見える。
私はとても場違いな気がした。
まるで、いつか見た熱帯魚の水槽の中みたいに。
熱帯魚の水槽に金魚が一匹紛れ込んだみたいだった。
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