471人が本棚に入れています
本棚に追加
「出ていいよ」
私は喉の奥から声を絞り出した。
まだ彼の感触が身体を埋め、めまいにも似た感覚が残っていたから。
震えるスマホは駄々っ子のように徐々にコール音が長引き、ついには彼が出るまで地団太を踏むようになり続けていた。
「ごめんな」
彼がもう一度謝るので、私は小さく首を振ってベッドの中で背中を向けた。
「なんなんだよ、こんな時間に」
彼の潜めたはずの声は苛立ちで尖っていた。
「お願い、今すぐ帰って来て!」
スマホから漏れる女の声は彼の声よりも静かに響く。
その響きに火照った身体が急激に冷めていく。
私はタオルケットを手繰り寄せ、胸元できつく握った。
最初のコメントを投稿しよう!