足りない酸素

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すると、彼が私の手を引っ張った。 「今日は俺が買う。飯代だ。いつも旨いもん食わしてもらってるから」 「そんなの、いつもあり合わせじゃん。こんなの買ってもらったらもらい過ぎだよ」 「じゃあ、これから食わせてもらう分も含めてってことで。それならいいだろ?」 私の目は一瞬、瞬きすることを忘れてしまったみたいだ。 彼の何気ない一言に心を鷲掴みにされる。 それと同時に彼がにおわす少し先の未来に安堵していた。 「じゃあ、もうちょっと美味しいもの作らなきゃ……」 照れ隠しに冗談めかして言うと、ガクちゃんは「今でも十分旨いから」と、笑った。 「さ、つべこべ言ってないで着てみろよ」 「ガクちゃん……」 私は彼に押し切られ、店員に案内されるままにフィッティングルームのカーテンの中に入った。
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