471人が本棚に入れています
本棚に追加
「こんな時間から無理に決まってるだろ」
私に聞かせるのが忍びなかったのか、彼はベッドから抜けだした。
私は身体の向きを変え、月明かりの差し込む薄闇の中で彼の黒いシルエットを目で追った。
女の声が耳に残る。
身体は落ち着き始めたはずなのに、鼓動は重いリズムを刻んでいた。
彼が遠くに行ってしまったので、もう会話の内容は聞こえない。
けれど、電話を締めくくる深いため息だけはベッドにいる私にも聞こえてきた。
「妹から」
彼はこちらに歩みながら最短の言葉で報告した。
「……妹さん?」
締め付けられた胸がわずかに回復する。
最初のコメントを投稿しよう!