存在

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「仕事、頑張ってね」 「ありがと。菜々美もあんまり無理しないでよ」 「私は大丈夫。彼がいるからね」 「はい、はい。ご馳走さま。じゃあ気をつけて帰ってよ」 駅に着き、私は菜々美を下りのホームに残して自分は上りのホームへ移動するために身体の向きを変えた。 階段を上る途中、一度菜々美を振り返ると、菜々美は子供みたいな笑顔で手を振っていた。 私は胸元で小さく手を振り返し、久しぶりに見た妹の笑顔に言葉にできない穏やかな気持ちに包まれていた。 「結婚……か」 ポツリと呟いた時、 その声を掻き消すように、ホームには電車の到着を知らせるアナウンスが流れ始めた。
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