存在

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「ガクちゃんとデートしたんだよ……」 夢のような一日を終えて帰宅すると、私は留守番をしていた金魚に向かって話しかけた。 金魚鉢の上から餌を指でつまんで入れると、金魚は水面に浮かぶ餌を吸い込むように食べた。 「私はイタリアンだったよ」 私は床に寝そべって、いつもの位置から金魚鉢を覗き込んだ。 そして、その視線を金魚鉢から壁際に移した。 帰ってすぐにワンピースを紙袋から取り出し、今朝、彼のズボンがあった位置に掛けたのだ。 私はワンピースを見つめながらどんなバッグが似合うか、どんな靴なら合うのか想像を膨らませた。 珍しく私のスマホが鳴ったのはその時だった。 真っ先に脳裏に浮かんだ名前はもちろんガクちゃんだったが、スマホのスクリーンに映し出されたのは妹の菜々美の名前だった。
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