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顔を洗ってローテーブルでメイクを始めると、彼が私の後ろから卓上の鏡を覗き込んだ。
「すぐ帰ってくるんだし、メイクなんてしなくていいだろ」
鏡の中で彼と目が合った。
「うん、だから簡単に。日焼け止めは必要だから」
私はその目を逸らしながら言うと、ファンデーションを仕上げた。
「ガクちゃんも顔洗ったら?」
鏡の中の彼に言い、彼を洗面台に追いやることに成功すると、その間に控えめなアイメイクを手早く施し、薄らとチークも乗せた。
ガクちゃんと外に出るのに、あまりに貧相な顔で出掛けたくはなかったのだ。
「行くか」
支度を終えた彼が私を見る。
簡単とはいえ、よそ行きになった私の顔から彼が女心を読み取ったかどうかは不明だ。
「うん」
玄関のドアを開けると落ち着いた秋晴れが二人を待っていた。
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