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散歩をするにも気持ちがいいけれど、近くのスーパーと言えども少し距離があるのでガクちゃんの車で出掛けた。
散歩の代わりにエアコンをつけずに運転席と助手席の窓を三分の一ほど開けて風呼ぶ。
「秋になったね」
窓の外を眺めながら車内でなびく髪を押さえて私は言った。
ガクちゃんと過ごす年月は短いとは思わないけれど、
季節に触れた会話は数えるほどしかしていないような気がした。
「だな。秋の空って古ぼけた写真みたいじゃねえ? ああ、いい意味で、だけど。何か懐かしいような、さ」
私は彼の話を聞きながら微笑んだ。
「なんか、わかる。ガクちゃん、素敵。詩人みたい」
「バーカ、からかうな」
彼は照れたのか前を向いて右手ではハンドルを握ったまま、左腕を私の頭に伸ばすと、髪の毛をクシャリと握った。
「ちょっと、やめてよ」
「風でどうせぼさぼさだろ?」
「だから余計にやめてよ」
私は彼の左手を自分の頭から剥がすと自分の膝の上でその手をつかまえるようにギュッと握った。
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